賢一に関する話【ゆり&オルディネ】

2年ほど前に適当にまとめた賢一に関する情報が今になって出てきたので投稿します。
賢一視点での他キャラへの印象や思い出が書かれていますので、実際にスレ内であった事実とは違う点もあります。
ツイッターでまとめてあったので文字数の関係で文章が途中で切れてたりしますがご了承ください。また、検索よけのため二人称、三人称が多用されています

【ゆりちゃんについて】
付き合いたいと思ったことはなかった。抱きたいと思うこともなかったが、可愛いやつだと思った。馬鹿な子ほど可愛いという言葉は彼女にピッタリだと思った。彼女にバカと呼ばれるのはムカつきはしたが不快じゃなかった。ただやっぱりムカつきはしたからウメボシをカマしてやる。
何度もウメボシをきめてやっても彼女は何度も俺のことをバカという。そんなやりとりばかりして、お互いの事を余り語ったことはない。だから俺は彼女が何を好きなのかも知らないし、彼女が何の罪を犯してゲームに参加したのかも知らない。
思い返してみるとあまり彼女について知らない事に気がついた。こんなんで友達って言えるのかどうかは俺には判断できない。元々友達が多かったわけじゃないからどういうものを指して友達って言えるのか俺にはわからない。
でも彼女が俺に対して何かしらの関係を感じてくれてたら嬉しいなと思った。たとえそれが友達っていう関係じゃなかったとしても別にいい。彼女との関係に無理に名前をつけようとは思わなかった。
彼女が死んだと知らされた時に、自分は彼女に癒されていたことを知った。学校でも家でも人付き合いをうまくできなかった俺と対等に話してくれて、素の自分を出しても引かないで相手をしてくれる彼女と話すことで自信を得ていたんだと思う。彼女が死んでから人と付き合い方に自信が持てなくなった。指標となるものを失って、どこまで他人に踏み込んでいいのかが一層わからなくなった。

彼女のクローンに会った時には驚いたが、すぐにクローンが彼女とは違う人間だとわかった。金切り声に小生意気な態度、偉そうな口ぶり、ふとした時に出る仕草。彼女とは全然違ったなら別人だと割り切れるのに、クローンから見え隠れする彼女の面影を見て、そのクローンに愛おしささえ感じた。
クローンは彼女の事を知りたがっていたので、俺が彼女について知っていることだけを教えてやったら、クローンは嬉しそうにもっと教えてとねだってきた。
クローンが死んだ母親について知りたがる子のように思えて幼い頃の自分とクローンを重ねてしまった。自分が生まれることに大きく関わった人間について知りたい気持ちを知っているから、先を知りたがるクローンの期待に応えてやるつもりでいたら、クローンの口から思いもしない事実を知らされる。
クローン達は3ヶ月しか生きられないと彼女のクローンは言う。懐かしさを愛おしさを感じてから数分も立っていないと言うのに、もう喪う未来を見せられた。
自分が大切だと思う人ほど早くいなくなる。もしや自分は死神なんじゃないかと錯覚する。やるせなさと主催者への憤りを感じているとクローンから、彼女のバングルを渡される。クローンはいつか私の事を迎えに来てと言う。
俺はいつものように平然とした顔で嘘を吐く。絶対に迎えに行ってやるからなとできもしない大嘘を吐いてクローンと指切りを交わした。それからクローンに彼女の事について色々話しながら夜遅くまで散々騒いで、廃工場の隅で二人で肩を並べて寝た。
初めて他人の温もりを感じながら寝た。気温が低くて快眠とはとても言えなかったけれど、それまで生きてきた中で一番安心して寝ることができた。俺に遅れて目を覚めしたクローンに目覚めの挨拶を交わし互いの意識がはっきりとした所でクローンとは一度別れた。
それが今生の別れになることも考えたが自分には自分の、クローンにはクローンのやることが有ったから一緒に居続けることはできなかった。
廃工場から離れていくクローンの後ろ姿は彼女とそっくりで懐かしさを感じた。

【オルディネについて】
初めて会った時、カッコイイ男だと思った。日本人離れした体型にキリリとした目つき。他の人間がしたなら軟派そうに見えるだろう長髪を後頭部の一点でまとめ、オールバックを決め込んでいる姿がスーツによく似合っていた。初めて大人の男に対して憧れを抱いた。こんな男になりたいと心から思った。口を開けば厳格な口調と痺れるようなバリトンボイスに夢中になった。
でもどれだけ夢中になって話しかけても彼からは無愛想で情を感じさせない言葉しか返って来ない。それさえも魅力だと思えるほど俺は強くなくて、彼に悪態をついてその場を去った。
彼はジョーカーだから、プレイヤーという立場上あまり会いたいと思う相手じゃなかった。俺がそんなことを思っていたからか、彼があまりエリアを巡回していなかったのかはわからないが彼と会った回数は数えるほどしかない。その数回で会うたびに彼に対する印象が変わった。
ある日彼は自分の前に現れ告げた。「私がクローバーのAを殺した」と。
それが嘘だろうとか、冗談だろうとか考えることはまったくなかった。彼のことを詳しく知っているわけじゃなかったけど、そんな笑えもしない冗談を口にする男じゃないことぐらいはわかっていた。
彼女はジョーカーを攻撃したから、違反者として彼に殺されたらしい。彼が嘘をつく人間には見えなかったが彼の言っていることをすへて信じることはしたくなかった。一度は自分も彼女に襲われたことがあるから、絶対に彼女が他人に攻撃しないだなんで思っていなかったけど理由もなく他人を襲うやつだなんて思えなかった。
だからきっと全ての非は彼にあったのだろう。彼が何か彼女に仕掛けて嵌めたのだろうと決めつけた。そして、自分の友達を奪った彼に復讐する事を決意した。それが自分が一番納得がいく方法だと思ったからだ。

結果だけを言うなら復讐は失敗に終わった。
ゲームで優勝するために、彼女のクローンとの約束を守るために勝ち急いだ結果、違反者として罰せられることになった。
俺を処刑するために用意されたジョーカーは予想通りオールバックの似合うあのジョーカーだった。
惨めだなと彼に言われて胸が軋んだ。一度は憧れた男に惨めだと言われ、その男の手によって殺されることが惨めで、自分の人生が所詮"そんなもん"でしかなかった事を思い知らされているような気になって表情が歪みそうになったが、自分を偽ることがうまい俺は皮肉った口振りで彼に言葉を返した。
木にもたれかかって木々の隙間から漏れる夕日が彼を照らしているのを見る。初めて会った時と変わらず艶のある髪に心奪われる。鋭い目が自分を捉えてから、ゆっくりと銃を向けられる。彼が持つにしては煌びやかすぎる銀色の拳銃に僅かに不服を抱きながらジッと拳銃を構える彼を見る。
まっすぐ自分の胸に向けられた銃口を見て、鼓動が早くなる。殺されたくないと心が叫ぶ。痛いのは嫌だと、まだ生きていたいと縋る言葉が心の中で浮かんでは沈んでいく。便利な精神構造をしているおかげで恐怖を感じても表には出ることはなかったのがせめてもの救いだろう。憧れの男の前で取り乱す経験なんて一度だけでいい。
俺の命が奪われる瞬間へのカウントダウンが始まる。10、9、8と淡々とカウントしていくその声にも憧れた。何度も彼の声真似の練習をしたけど、憧れという感情が邪魔をしていつも理想である彼の声を完璧に真似ることはできなかった。それでも練習を重ねてやっと彼の声に近づいてきたと思っていたのに、結局は最期まで憧れは憧れのままになってしまった。最期まで彼に近づくことはできなかったのだ。
2、1、0とカウントが終わった瞬間に発砲された銃弾は少しもズレることなく自分の心臓を撃ち破る。淡々と自分の仕事をこなし、人を殺しても動じることのないその姿は弱い自分からは格好良く見えて、最期に見るのが彼というのも悪くないと思ってしまった。

name
email
url
comment